異端審問――大国スペインを蝕んだ恐怖支配

スペインとポルトガルで起きた、ある社会現象…災害かな?人災の方が正確なんだけど、なんというかそれだと小さい気がする
人の性質が起こす災害、人災だけどやっぱり人災では足りない


最初は小規模な物だった、イスラム教からの改宗者のうちの、いわゆる隠れムスリムを取り締まり始めた
民衆の中には難色を示す者もいた、けれど恐怖による統治が巧みなため制度は止まらず、資産没収を主な財源にした官僚組織となって政治を蝕んでいった
教皇庁も停止令を出した、けれど異端審問所はスペイン王家にとってもその時は有用だったため撥ねつけた

民衆の告げ口やスパイ網の整備、それにともなう財産没収の収入拡大で異端審問所はさらに肥大化していった

最終的にほぼ全てのイスラム改宗者を迫害した結果、彼等は農業従事者の大半であったので貴族の荘園は荒廃した
迫害は次の敵を求めて延焼していく、ユダヤ教からの改宗者、異端とされたキリスト教の多くの派閥、フリーメーソン、男色家
そして、先祖にそれらがいないと「証明できなかった者」に及んだ

民衆は、次第に自分たちが迫害されないように他の人間を異端扱いすることを始め、暴走を始めた
暴走による犠牲は富裕層や知識人階級に及び、技術革新の著しい18世紀のヨーロッパで一時は大帝国を気付いたスペインは競争に負け没落していく
同時に異端審問所も衰退していった

最後に暴走した民衆は形骸化して久しい異端審問所を、物理的に破壊した

異端審問所が肥大化していく流れ
拷問が正当化されていく流れ
民衆が正気を失っていく流れ
民衆の敵が次から次へ再生産されていく流れ
国家が内側から崩壊していく流れ

全てが怖かった、人間の性質が起こした災害なので日本の私達も無関係では居られないというのが怖い
最初はほとんどの人が賛成した制度ってのも怖い
異端審問所の追跡や拷問・処刑の描写はたしかに怖く感じるかもしれないけど、そんなものが吹き飛ぶ怖さ
とにかく、色々な物が怖い

なんというか説明し難いけれど、凄い本だった



追記:あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします

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