その中の一場面が本当に見事なので紹介、読みやすいように少しだけ変えました
まずは拙作ですがあらすじからどうぞ
少しの空白の後に本文です

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明治の東海道、桑名の停車場に下りた二人の老人、捻平(ねじべい)と小父者(おじご)
取った宿の湊屋(みなとや)に芸者を呼ぶが新兵の送別会と被り芸者がいない
折角来たのだから地元の唄が聞きたい、素人でもいいから呼んでくれと言って呼ばれたのが、役立たずと送別の宴から追い出されたお三重
酌や三味線の1つもできないと落ち込むお三重を慰める二人と女中のお千
けれど舞の真似事なら出来るというお三重、それならばとやらせてみた
その舞の見事な事、捻平は遮り言った
「なるほど、その舞を教えた者には心当たりがある、その舞に合わせたら並の謡は木っ端だし宴も魔性に凍るだろう」
そう言って笑い、手荷物から風呂敷を1つ、厳かに引き寄せ膝の上に置き…


膝で解く、その風呂敷の中を見よ。
土佐の名手が画いたような、紅い緒の糸、立田川、月の裏皮、表皮。
玉の鼓を打つやうつつに、天人までも届くよう、『雲井』と銘ある秘蔵の塗胴。
老の手捌き美しく、錦に梭を投ぐるよう、さらさらと緒を緊めて、火鉢の火に高く翳す、と
……呼吸をのんで驚いたように見ていたお千は、思わず、はっと両手を支いた。

芸の威厳は争われず、この捻平を誰とかする、七十八歳の翁、辺見秀之進。
近頃孫に代を譲って、雪叟とて隠居した、小鼓取って、本朝無双の名人である。
いざや、小父者は能役者、当流第一の老手、恩地源三郎、すなわちこれ。
この二人は、侯爵津の守が、参宮の、仮の館に催された、一調の番組を勤め済まして、あとを膝栗毛で帰る途中であった。

――――
「赤い緒」と「からくれないの竜田川」を重ねる所や天人に雲井の銘を重ねる捻り具合
明治の作品なのに読んでいて平成の耳を幸せにさせるキレの良さ、本当に綺麗
本文を引き立てるためお気に入りのここだけ紹介しましたが、他にも見どころのいっぱいある名作です

なお、今回使用した本文は青空文庫さんより拝借しました、管理人やボランティアの人達に感謝いたします
原文もそちらで読めるのでよければどうぞ

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